「学ぶ人」と「育てる現場」、 ともに意義あるかたちを目指して。 技能実習制度のリアル。(「生協の介護・福祉」のプロ紹介)

外国人が母国において習得が難しい技能を、日本の企業で働きながら身につけることができる「外国人技能実習制度」。デイサービスとホームヘルプサービスを提供する生活協同組合パルシステム東京「八潮陽だまり」も、そんな技能実習生の受入れを行っている介護施設だ。実際に外国からやってくる技能実習生はどのように働き学んでいるのか、そして制度の導入が事業所にどんな影響をもたらすのか。技能実習生のトエさんと、その上司である清水さんにお話を伺った。

■技能実習生インタビュー:ピョウ・ヤダナー・トエさん

田舎の祖父母のお世話をしてあげたい。
その想いが介護の仕事を学ぶきっかけに。

――技能実習生として働かれているということですが、日本で介護について勉強しようと思われた理由について教えてください。

私はミャンマーにいた頃から、介護の仕事について勉強していました。ミャンマーの田舎ではお年寄りが多く、私も自分のおじいさんやおばあさんの爪を切ってあげたり、シャワーをしてあげたりというお世話をしていたこともあり、以前から介護について興味があったので、日本でも介護の仕事に就いて学びたいと思うようになりました。

――当時ミャンマーで勉強されていた介護と、日本の介護とでは何か違いがありますか?

ミャンマーでは薬の飲み方や身体の状態についてなど、色々なことを勉強しました。ミャンマーでは病院で介護を行うことはよくありますが、「八潮陽だまり」のようなデイサービスなどの介護施設はあまりないので、そのあたりに違いがあるかなと思います。

――日本で介護を学べば、ミャンマーに帰国した後も技術を生かせそうだなというお気持ちがあった?

そうですね。ミャンマーに帰ったら田舎のおじいさんやおばあさんのお世話もしてあげたいと思っているので、日本語の勉強と共に介護についても日々勉強しています。

――今、お仕事ではどんな業務を行っているのですか?

今は他の職員の皆さんと一緒に、「八潮陽だまり」に通所されるご利用者様のお風呂介助や食事のサポートなど、ひと通りの介護を行っています。仕事に慣れるまでは先輩の職員さんにサポートしてもらいつつ、わからないときは質問したりしながら、段々と仕事を覚えていきました。

文化の違いに苦労することもある。
それでも一歩ずつ仕事を覚えていけるのが嬉しい。

――お仕事をされている中で、「ここが楽しい」と感じられることはありますか?

ご利用者様との会話や、やりとりをする時間ですね。職員とご利用者様で一緒にゲームをしたり、手を使ったレクリエーションをしたりする時間も楽しいです。それから一つひとつの仕事を覚えて、介護の場面でそれを活かせたときはとても嬉しいです。

――逆にお仕事で「ここが大変」と感じることはありますか?

実際の介護で言うと、車椅子の方をお風呂介助するときは体力も必要なので大変だなと感じました。また、ミャンマーと日本の文化の違いに苦労したこともあります。例えば、食事の際に濡れているお茶碗を出すのは失礼にあたるということだったり、最初の頃は今よりも日本語がわからなかったので、スムーズにしゃべれなかったりと色々と大変でした。

――お仕事で心がけていることがあれば教えてください。

ご利用者様へ話しかけるとき、明るく優しく声をかけることです。コミュニケーションを取る上でとても大事なことだと思うので心がけています。

――日本でのお仕事を経験していく中で、そう思われるきっかけがあったのですか?

まだ仕事のやり方もあまりわからない頃、私の声のかけ方がよくなくて、ご利用者様を怒らせてしまうことがあったんです。先輩や上司に教えて頂いて、何がダメだったのかをよく理解できました。その経験もあって、今はご利用者様に楽しい気持ちで過ごして頂けるよう心がけています。

――先輩方に教わりながら、経験を糧にされているんですね。トエさんの今後の目標を教えて頂けますか?

日本にいる間には、介護について広く勉強したいです。介護職員初任者研修や介護福祉士実務者研修、介護福祉士などの資格もこれから頑張って取りたいと思っています。あとは日本語の勉強も。日本語能力検定試験の1級(N1)に合格できるように勉強中です。

――ここまでお話していて、とても日本語がお上手だなと感じました。

いいえ、まだまだです(笑)。これからも頑張ります。

■センター長インタビュー:清水 結花さん

実習生たちが後ろ向きな想いを抱かずに
学び働けるようサポートしたい。

――清水さんから見たトエさんの働きぶりはいかがですか?

トエさんは一言で言えば天真爛漫で素直、人の話もきちんと聞けて、1伝えたら10が分かるような子です。日本語で文字を書くのがまだ少し難しいということぐらいで、現場で働く事においては日本人の職員に引けを取らないですね。「八潮陽だまり」での業務も三年目に入り、以前よりも責任感が増してきたなと感じます。現在はフロアリーダー的な業務も行ってくれています。

――しっかりと経験を積まれているということですね。

そうですね。彼女のいいところは物怖じせず看護師さんにも同僚にもきちんと指示が出せるところです。「八潮陽だまり」では比較的医療度が高いご利用者様もいらっしゃるので、覚えるべきことも多いんです。最初の頃は彼女がミャンマー語から日本語に通訳できるアプリを持ちながら、私達も説明をして…という風に繰り返し教えながら、病気の事などについても段々と理解ができるようになってきました。

――技能実習生の方は他にもいらっしゃるのでしょうか?

「八潮陽だまり」としてはトエさんより前に、一期生の技能実習生がいました。パルシステム東京の方針として、3年同じ事業所で学んだ後、4年目からは違う事業所に人事異動という形になるので、現在は二期生のトエさんと、三期生の子を教育している段階です。

――トエさんはフロアリーダー的なお仕事もされているというお話がありましたが、それも事業所としての育成方針があるのでしょうか?

トエさん本人の働きぶりを見て「任せられるな」と思った部分と、方針として日本人の職員と平等に扱いたいという部分の両方ですね。事業所としては、お給料や業務内容の面でも差別なく、彼女達自身も後ろ向きな気持ちにならないように、責任ある仕事を任せることで、もっと頑張ろうって思ってくれたらいいなと考えています。

ひたむきに学ぶ技能実習生の姿が
ご利用者様や職員にいい影響を与えている。

――トエさんはご利用者様にとって、どんな存在だと感じられますか?

ご利用者様にとっては、トエさんは孫やひ孫ぐらいの年齢になるので、若い子からパワーをもらえるというのは、心身ともにとてもいいことだなと思っています。

「八潮陽だまり」では、ご利用者様やそのご家族含めて「外国から来て頑張っているんだね」とトエさんをすごく応援をしてくださっています。ミャンマーで内戦があった際にも、ニュースを見たご利用者様が「お父さんとお母さんどうなの?」という声をかけてくださったり…。ご高齢の方にとって、そんな風に気にかけてあげられる相手がいるというのは生きがいにもなりますし、日本の文化を教えてあげたいという気持ちの活性化につながっていると感じますね。

――技能実習生を受け入れたことによって、事業所としてはどんな変化がありましたか?

やっぱり最初の頃は言葉の壁や、外国の方と一緒に働くことへの不安はありました。ただ、日々トエさんをはじめ、技能実習生の子達と一緒に仕事をすることで、日本人の同僚達も改めて自分たちの仕事に対して「間違ったことを教えちゃいけない」という、いい緊張感を持てるようになりました。自分たちのステップアップや今までの仕事を振り返るという意味で、私たちにとっても非常にいい機会になっていると思います。

――上司の立場として、今後どんな風にトエさんをバックアップしていきたいですか?

今のトエさんの目標として、日本語能力試験のN1と介護福祉士の資格を取ることがあるので、合格・取得のサポートをしていきたいですね。試験に受かれば、事業所内でも申し送りの記入など、任せられることも増えて、より彼女のスキルアップにもつながると思うので、フォローをしていけたらと思います。

「介護実習生の日本での暮らし」

トエさんの日本での暮らしぶりは、一般社団法人国際介護人材育成事業団のYouTube動画でも「介護実習生の日本での暮らし」として紹介されています。ぜひご覧ください。

この記事を書いた人・法人について

ピョウ・ヤダナー・トエさん・清水 結花さん

生活協同組合 パルシステム東京 デイサービスセンター「八潮陽だまり」

  ピョウ・ヤダナー・トエ:生活協同組合 パルシステム東京 デイサービスセンター「八潮陽だまり」 技能実習生。日本で介護について学ぶためにミャンマーより来日し、今年で三年目。「八潮陽だまり」における技能実習生の二期生として、日本人のスタッフと共に利用者への介護を提供している。清水 結花:生活協同組合パルシステム東京 「八潮陽だまり」 センター長。職員をまとめるセンター長の立場として、トエさんをはじめとする技能実習生の教育・指導も行っている。

おススメの記事

介護やくらしに役立つ情報はこちら!